楽園の炎
「あの夜言ったように、僕は朱夏と結婚するつもりでいたわけだけど。ナスル姫を妃に迎えれば、僕がどんなに朱夏を想おうと、正妃の座はナスル姫だ。朱夏を娶るには、側室にするしかないけど、朱夏はそんな地位、嫌だろ?」

朱夏は黙っている。
憂杏にも言われたが、朱夏の本心としては、よくわからないというのが本音だ。
側室という立場がどういうものか、単語として知ってはいるが、実際自分をそこに当てはめて考えることはできない。

結婚というもの自体、全く頭になかった朱夏だ。
そのようなところにまで、考えが及ぶはずがない。

「きっと朱夏は拒むだろうから、諦めるしかない。・・・・・・あのときは、我を忘れて無理矢理僕のものにしようとしたけどね。朱夏が自分で言ったように、無理矢理側室にしても、それは僕の好きな朱夏じゃないわけで。本当の朱夏が欲しい僕は、ナスル姫にそれを求めると思うんだよ」

「つまり、このままナスル姫と結婚しても、葵はナスル姫自身を見てあげられないってこと?」

今度は、葵が首を傾げた。

「どうかな。将来的には、ナスル姫自身に惹かれることも、あるかもしれない。でも今の時点では、僕はきっと、ナスル姫を真剣に見ているわけではないと思う。そういう気持ちって、ナスル姫には、凄く失礼だよね」

僕が言わなきゃ、わからないことだけどね、と、葵は月を見上げた。
< 181 / 811 >

この作品をシェア

pagetop