楽園の炎
「ね、桂枝。ユウ・・・・・・夕星様は、一体いつからこの部屋にいたの?」

「随分前からですわよ。何回か、お茶をお出ししましたから」

にこにこと朱夏の着替えを手伝いながら、桂枝は嬉しそうに言う。

「乙女の部屋に勝手に入るなんてっ。その上、寝てる姿をずっと見てるなんて、何て人なのよ!」

赤くなってぷんぷんと怒る朱夏に、桂枝は相変わらず笑っている。
そこにアルが手伝いに入ってきて、口を挟んだ。

「あら。見ている分には、微笑ましい風景でしたわよ。夕星様も、じっと朱夏様を見下ろしているだけで、特に何をするわけでもありませんでしたし。ていうか、朱夏様だって、夕星様がすぐ近くにいらしても、全く起きなかったじゃないですか」

そ、そういえば・・・・・・と、朱夏は頭を抱えた。
腕が鈍っているのかと、本気で心配になる。
が、考えてみれば、夕星に関しては、朱夏の感覚は狂いっぱなしだ。

「ああっ迂闊! このあたしが無防備にも、他人の前で寝顔を曝すなんて」

「またまたぁ。そんなこと、今後は当たり前になりますわよ。やっぱり、心から想うかたが相手だと、朱夏様の野性味も、なりを潜めるのですね」

「野性味って何よ」

すかさず突っ込む朱夏に、アルは笑って用意した帯を締めた。
その拍子に、朱夏のお腹が、くるる、と音を立てた。
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