楽園の炎
「本当に、あのお転婆なばかりだった朱夏様が・・・・・・。無事殿方に目覚められたのも喜ばしいことですが、まさか皇帝陛下のお子に見初められるとは」

さめざめと目頭を押さえる桂枝に、朱夏は真っ赤になって、意味もなくスープをかき回す。
動揺しているため、勢い良くかき混ぜられたスープが、少し器から飛び出した。

「そ、そんな・・・・・・。こ、子供だとか結婚だとか・・・・・・。何だかいきなり怒濤のように押し寄せて、まだあたしも、ついていけてないのに・・・・・・」

しどろもどろにぶつぶつ言う朱夏は、話を逸らすために考えを巡らせ、ふと初めに炎駒が言っていたことを思い出した。

「そういえば父上。憂杏に、何か用事なんですか?」

憂杏の名前が出た途端、桂枝の涙は止まってしまう。
炎駒は、ああ、とサラダをつつきながら答えた。

「いや。そうそう、ナスル姫様が、お前に会いたがっておられるようだよ」

「あたしに? そういえば、ナスル姫様にお礼、言ってなかったかも」

朱夏が塞ぎ込んでいたときに、何度か訪ねてきてくれたことも、お菓子を焼いてくれたことも、何よりユウを救ってくれたことも、まだ何もちゃんと話していない。

腰を浮かしかけ、朱夏は思い留まった。
すでにすっかり夜は更けている。
寝るにはまだ早い時間だが、姫君を訪ねていくには、遅すぎるだろう。

「わかったわ。明日、ナスル姫様のところに、ご機嫌伺いに参りますって、伝えておいてくれる?」

アルに伝言を頼み、朱夏は本格的に食事に取りかかった。
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