楽園の炎
「ね、アルはさ、誰かいい人、いるの?」

「わたくしですか? 特には。侍女が恋愛にうつつを抜かしていては、お仕事になりませんもの」

さらりと言う。
確かアルは、朱夏より三つ上だった。
結婚しても、おかしくない歳だ。

「いろんな国にいたんでしょ? アルのほうが、いろんな人と会ってるのよね。楽しそうね」

「ま、そうですね。そんな酷い主人に仕えたこともなかったですし。それなりに楽しくお仕えしてきましたわ。でも色恋沙汰は、一度痛い目に遭っているので」

え、と朱夏は、まじまじとアルを見た。
初耳だ。

「一度、こちらに来てからしばらく、コアトルの港町のほうへ、お使いに行ったことがありましたでしょ?」

アルがアルファルドに来て三年目ぐらいのとき、彼女は王宮仕えの貴族の依頼で、何人かの侍女仲間と共に、コアトルの港町に出かけた。
目的は、その貴族の叔母の静養先への、ご機嫌伺いだったのだが、あまり人のいない屋敷で寂しかったのか、貴族の叔母に勧められるまま、しばらく滞在することになったのだ。

「あのとき、町の郷士の息子と、いい仲になってしまいまして」

「え、そんなことがあったの?」

聞いてない~と言う朱夏に、アルはちょっと辛そうに笑った。

「朱夏様、そういう話に興味はなかったでしょう? もっともわたくしも、朱夏様がそういうかただからこそ、救われたのですけど」
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