楽園の炎
ほぉ、と呟き、夕星はいまだに固まったままの憂杏を振り向いた。

「ということだ。兄上がいるというだけで、憂杏には気詰まりだろうが、おそらく兄上は、お前に最も興味があるのだろう。我慢して、参加することだな」

「では、そういうことですので。また時刻になりましたら、使いをやりますので、皆様お支度をお願いします」

ぺこりと頭を下げ、やっと立ち上がって、アシェンは去っていった。
きびきびとした、一切の無駄のない動きだ。

「何だか凄く・・・・・・ちゃんとした人ねぇ」

あっという間に見えなくなったアシェンの姿を見送り、朱夏はため息をついた。
いかにも大国の皇太子に仕える側近、という感じだ。

「確かにあいつは、お堅いな。冗談が通じんから、たまに困る。からかい甲斐はあるがね」

笑いながらそう言って、夕星はナスル姫を促して立ち上がった。

「じゃあ憂杏、もうしばらくその格好だな。心配せんでも、俺たちだけだったら、兄上もそう堅くはない。楽しみにしてるぜ。朱夏、後でな」

にやりと笑い、顔を上げた朱夏に、夕星は屈んで軽く口付けた。
そのまま、何事もなかったように、ナスル姫と内宮に歩いていく。

いきなりの口付けに固まっていた朱夏は、恐る恐る憂杏を振り向いた。
何を言われることやら、と思ったが、憂杏は夕餉のことで頭がいっぱいのようだ。
腕組みをして、考え込んでいる。

「そんなに堅くならなくても、大丈夫じゃない? 父上もいないし」

ぽん、と肩を叩き、朱夏も憂杏を促して立ち上がった。
おそらく夕餉のことは、すでに炎駒や桂枝にも連絡が行っているだろう。
桂枝が今頃、慌てているのではないか。

「まぁな・・・・・・。どっちにしろ、皇太子殿下とは、もうちょっとちゃんと話したほうがいいだろうしな・・・・・・」

呟き、憂杏も立ち上がった。
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