楽園の炎
「ユウの好みは、こいつかぁ。見る目があるんだか、ないんだか。けど、こいつに夜這いをかけるのは、至難の業だぜ。葵の部屋を守る、兵士の部屋だからな」

「なっ何言ってんのっ。もぅっ」

赤くなって憂杏を押しのける朱夏を気にもせず、ユウは不思議そうな顔をした。

「王族の部屋の近く? でも、外宮なんだろ?」

「まぁな。外宮の最奥っていうか。有事の際には、葵の部屋に飛び込める、最短の位置にあるってこった」

憂杏の説明に、ふぅん、と呟き、ユウはぼんやりと遠くの王宮を眺める。
どうやら憂杏がからかうような、甘やかなことではないらしい。

「さて、じゃあ俺らも帰るか。ほら朱夏。そんなに見つめてないで、行くぞ。何、ユウに会いたくなったら、市に来りゃいいことじゃねぇか」

ばしんと背中を叩かれ、朱夏は我に返った。
どうも気を抜くと、ユウに目が行っているようだ。

朱夏は、ぎっと憂杏を睨むと、大股で歩き出した。

「おい朱夏! 待てよ」

憂杏が、慌てて朱夏を追いかける。
あっという間に追いついた憂杏の目を盗み、朱夏はそっと振り返った。

少し暗くなった市の人だかりに紛れて、ユウが笑って手を振った。
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