楽園の炎
「全く。一晩中そんなかちこちに固まっている気か? 毎晩そんなことじゃ、ククルカンまでもたないぞ」

呆れたように言い、夕星は、どさりと朱夏のすぐ横に身体を倒した。

「どうこうするつもりはないって言ったろ? でも、あんまり朱夏が意識すると、こっちまでそういう気になってしまうぜ。男が一度その気になったら、抑えるの、大変なんだからな」

「そ、そうなんだ・・・・・・」

慌てて朱夏は、固まった身体をほぐそうとする。
具体的にはよくわからないが、とりあえず、自分が落ち着かなければ、夕星も困るようだ。

それに、夕星の言うとおり、こんながちがちのまま一晩いたら、明日の砂漠越えに、どんな影響があることやら。

「でもさ、そんなに緊張して、もしかして朱夏、俺でも嫌なの?」

「そんなことないよ!」

反射的に、朱夏は答えた。
おかげで少し、緊張がほぐれる。

朱夏は改めて、深呼吸した。
落ち着いてくると、夕星の腕の中は、どこより安心できるのだ。

「あのね、あの後、アルに聞いてみたんだけどさ。やっぱりよくわからなくて。何か、聞けば聞くほど、怖いのよ。そういうの、聞いちゃったから、余計なんだと思う」

「怖い・・・・・・? 怖くは・・・・・・ないと思うけどなぁ。朱夏が、俺のことを好きならね」

「ユウのことが好きなら、怖くはないの?」

「多分ね」

俺は女じゃないから、女子(おなご)がどういう気持ちなのかはわからんが、と呟き、夕星は朱夏を抱き寄せた。
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