楽園の炎
「ナスルのことも報告がてら、頼んでおかないといけないと思っていたが・・・・・・」

難しい顔で言う皇太子に、ナスル姫はちょっと首を傾げてみせる。

「でも、わたくしは商人に嫁ぐのですから、別にそのままの格好でも、よろしいのじゃなくて?」

「ううう~ん・・・・・・。ちゃんとするに越したことはないが。それに、とりあえず叔父上のところはそのままでいいとしてもだな、父上にお目通りするときは、さすがに商人の格好のままってのは、いかんだろう。どっちにしろ、衣装が必要ではないか」

困り切ったように言う皇太子に、皆う~む、と頭を悩ます。
と、ナスル姫が、ぽんと手を打った。

「そうだわ。叔母上に作っていただきましょう。そもそも皇族のような、立派なものでなくてもいいのでしょう? 簡単なものなら、すぐにできますわ」

軽く言うナスル姫に、ええ? と朱夏は目を剥いた。
叔母上といっても、そんじょそこらの身分ではない。
ククルカン皇帝の弟君の、正妻なのだ。
そのようなかたに、一介の商人の衣装を頼むというのか。

だが、夕星も特に異議を唱えないばかりか、軽く頷いた。

「そうだな。叔母上は裁縫得意だし。でも、さすがに半日やそこらでは無理だろうな。兄上、二日ほど、コアトルの町に滞在しましょうよ。折角久しぶりに、叔父上にお会いできるのだし、兵士らも市で遊びたいでしょう」

「ふん。遊びたいのは、お前だろう。まぁいい。お前はともかく、私は本当に叔父上にお会いするのは久しぶりだし。今後もそうそう、来られるわけではないからな。挨拶だけで、すぐに帰るというのも味気ないしな」

結局は皇太子も同意し、二、三日コアトルに留まることが決まった。
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