楽園の炎
「燃え上がるような恋なんて、そうそう経験できませんわよ。大抵は、何となくくっついて、何となく結婚、もしくは親の勧めるまま、主人の勧めるまま、ですわ」

「ええ? そういうもの?」

驚くナスル姫に、侍女たちはまた、けらけらと笑う。

「一目見た途端に恋に落ちるなんて、そんなの、物語の中だけですわよ」

「一目で好きになった殿方と、身分が同じということも、あまりありませんもの」

ひらひらと手を振って口々に言う侍女らは、ふと思いついたように、ナスル姫を見た。

「姫様は、あの大柄な商人のかたに、そんな激しく惹かれたんですか? ああ、あの幼いばかりだった、天使のような姫君が・・・・・・」

「ちらりとお見かけしただけですが、何というか・・・・・・あの、もしかして葵王様って、とんでもなく性格が悪かったりしたのですか?」

皆一様に、憂杏がナスル姫の相手だということに、納得しかねているようだ。
だがナスル姫は、むしろ誇らしげにふんぞり返る。

「ふふん。皆、見てくれだけで殿方を選ぶのは、失敗の元だわよ。中身もしっかり見なくちゃあ。葵王様も素敵な殿方でしたけど、憂杏は、それよりずっと素晴らしいかたなのよ。あのかたよりも素敵な殿方なんて、そうおりませんわ」

自信たっぷりに言うナスル姫にも、やはり皆ぽかんとしたままで、呆気に取られるばかり。
朱夏でさえ、その通り、とは思えない。

「・・・・・・幼い頃より美に慣れ親しんできたお陰で、ご趣味がちょっと、変わっておしまいになったのかしら」

ぽつりと呟いた侍女の言葉に、朱夏は思わず吹き出し、ナスル姫はぎろりと刺すような視線を向けた。
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