楽園の炎
「早いですね。って、そうでもないか。すっかり寝坊してしまった」

少し照れくさそうに、おはようございます、と挨拶する葵に、夕星も軽く挨拶を返す。
そして、自分の前の椅子を勧めた。

葵が座ると、すぐに侍女が朝餉を用意する。

「なぁ葵王。市に行ってみるかい?」

粥を啜る葵に、夕星が言った。
葵はすぐに、笑顔で頷く。

「ええ、是非。コアトルはアルファルドにとっても重要な町ですし。市の様子を見ておけば、どういったものが我が国に流れているのかもわかるでしょう」

勢い込んで言う葵に、夕星は、ははは、と笑った。

「ま、ごもっともな意見だが。もっと純粋に楽しめよ。確かに外交の勉強のための留学だが、どうせなら楽しんだほうが得だぜ」

「でも、ただ遊びに来たわけではないのですから・・・・・・」

「遊びの中にも、学ぶところはあるものさ」

あくまで軽く、夕星は言う。
若くして大国ククルカンの宰相を務める夕星は、しょっちゅう各地をふらふらしていたようだ。
説得力があるような、ないような。

「じゃ、飯食ったら行こうか。憂杏はどうする? 大体のサイズは測ったんだろ。じゃ、あとは出来上がりぐらいに合わせるぐらいじゃないのか?」

憂杏はちょっと考えて、傍の侍女に、そんなもんか? と聞いてみる。
侍女は特に正妃付きではないが、こじんまりした宮殿なので、皆大体のことはわかっている。
正妃がいつも、どういう風に衣装を作ったりするのかも、知っているのだろう。
気軽に、そうですね、と答えた。

「そんじゃ、行こうかな」

そうと決まれば、憂杏はいそいそと支度を始める。
貿易の要所の市など、商人にとっては垂涎の的だ。

結局葵の食事を待って、男三人は市へと出かけていった。
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