楽園の炎
広間に入ると、竜と苺鈴、その他三人ほどの商人が平伏していた。

「奥方様には、お久しぶりにございます。本日はお目通りを叶えていただき、まことにありがとうございます」

竜が平伏したまま、口上を述べる。
正妃は椅子に腰掛けながら、ほほほ、と笑った。

「お久しぶりですわね。お元気そうで、何よりだわ」

どうやら竜は、宮殿の常連のようだ。
だからこそ、正妃もあっさりと入城を許したのだろう。
親しげに声をかける正妃に、竜はさらに深く頭を下げる。

「もったいないお言葉、ありがとうございます。本日は、以前奥方様が仰っていた宝石も仕入れておりますれば・・・・・・期待に沿えることと思います」

竜に促され、商人が大きな箱を運び、苺鈴が机の上に商品を並べていく。
その物珍しさに、朱夏もナスル姫も、わぁ、と声を上げて見入った。

特に朱夏は、東方の物に限らず、あまり外国のものを知らないので、目を輝かせて商品を見た。
そんな朱夏の腕に光る、翡翠の腕輪に目を留め、竜は、ほほぅ、と呟いた。

「あなた様が、夕星様のご婚約者様ですか」

いきなり話しかけられ、朱夏は我に返って、傍に佇む老人を見た。

「このキャラバンの隊長、竜と申します。以後、お見知りおきを」

「あ、・・・・・・朱夏と申します」

どうも、自己紹介をするときは、『アルファルド王側近・炎駒が娘』という文句が、口を突いて出そうになる。
『夕星皇子の婚約者』とも、堂々と言えない。

「なるほど、お可愛らしいかたですな」

そう言いながらも、竜は怪訝な顔で、まじまじと朱夏を見る。
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