楽園の炎
「そりゃあ、夕星様が見初めた女性を、早く見たいがためですよ」

よく日焼けし、鍛え上げられた堂々たる体躯の兵士は、そう言って笑うと、朱夏に視線を転じた。

「お初にお目にかかります。夕星様直属の近衛隊・隊長補佐官を務めておりますネイトと申します。以後、お見知りおきを」

にこ、と笑う兵士---ネイトに、朱夏は慌てて馬から降りようとする。
ただでさえククルカンの兵士と対等には付き合えないのに、近衛隊長補佐官などという物々しい肩書きの兵士相手に、馬上で挨拶などとんでもない。

だが、夕星に、がしっと身体を掴まれてしまう。

「何やってる。城門を入ったところで、城まではまだまだだぞ」

「で、でも。ご挨拶しなきゃ」

腰を掴まれたまま、朱夏はじたばたと暴れる。
その様子に、ネイトは、ぶは、と吹き出した。

「ははははっ。何とまぁ、お可愛らしい姫君だ。姫君、お気になさらず。あなた様は私の上司であり、主たる夕星様のお妃なのですから」

「そうだぞ。お前はちょっと、自分の身分を自覚すべきだ。今この隊の中では、上から三番目だぞ」

仕方なく、朱夏は馬上から、ぺこりと頭を下げた。

「朱夏と申します。よろしくお願い致します」

そのまま一行は、城門をくぐり、城への道を進んでいった。
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