楽園の炎
「あ、あたしはべつに・・・・・・」

「照れない照れない」

ニオベ姫までが、にやにやと笑いながらぽんぽんと朱夏の腕を叩く。
そうこうしているうちに、小宮についた。

「ナスルお姉ちゃま!」

兵士が扉を開けるや否や、ニオベ姫は朱夏を引っ張って、部屋の中に飛び込んだ。
驚いたように、ラーダが出てくる。

奥の居間に、ナスル姫と憂杏の姿があった。
憂杏はニオベ姫を見るや、満面の笑みで立ち上がり、腰を落として両手を広げる。

「おじちゃぁん!」

警戒心なく、ニオベ姫は嬉しそうに憂杏に突っ込んでいく。

「おお姫さん。元気だなぁ」

ニオベ姫を軽々と抱き上げ、憂杏が笑う。
大柄な憂杏の肩辺りまで抱き上げられ、ニオベ姫は、きゃっきゃっと明るい笑い声を上げた。

「ナスル様、何だか久しぶりですね」

実際はそう会っていなかったわけでもないのだろうが、朱夏はナスル姫に笑いかけ、前の椅子にかけた。
ナスル姫は、縫い物の手をとめて、微笑んだ。

「そうね。もしかして、帰国してから、会ってないんじゃない? わたくしたちはすぐに、この小宮に入ってしまったし。お兄様は、ちょくちょく顔を出してくださったけど」

「ま。じゃあ、ナスル様のご結婚がどうなったか知ってるくせに、あたしのところには顔を出してないってことですか」

唇を尖らす朱夏に、ナスル姫は困ったように小首を傾げた。
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