楽園の炎
思わず朱夏の顔も引き攣った。
だが進む回廊は、真っ直ぐである。
今更あからさまにUターンするわけにもいかない。

ほとんど止まってしまった朱夏たちとは逆に、アリンダ皇子は前方にいる朱夏に気づくと、真っ直ぐに近づいてきた。

「やぁ、これは。確か、朱夏姫とか申したか」

兵士の一団から進み出たアリンダ皇子が、朱夏に近づいた。
気づかれぬよう、小さく息をつくと、朱夏は軽く膝を折って、頭を下げた。

「これはアリンダ様。ごきげんよう」

レダも仕方なく、その場に膝を付く。
朱夏のすぐ前に立ったアリンダが、辺りを窺う気配がした。

「ふーん? 特に突出して目を惹く姫でもないな。ま、夕星の趣味だ。私とは違っても、おかしくはない」

なぁ、と背後の兵士に言い、ははは、と笑う。
後ろの兵士らは、アリンダの取り巻き連中なのだろう。
いかにもうだつの上がらなそうな者たちが、にやにやと下卑た笑いを浮かべている。

「散歩か? 私が案内してやろう」

腕を掴もうと伸びた手を、朱夏は少し下がって避けた。

「いえ、アリンダ様のお手を煩わすまでもありません。お気遣いなく」

口角を上げ、やんわり拒否する。
笑みを浮かべたつもりだが、どうしても嫌悪感が先立ってしまう。

早々に立ち去ろうと、朱夏は再度頭を下げ、レダを促して歩き出そうとした。
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