楽園の炎
あはは、と笑う朱夏に、夕星も少し笑った。
が、すぐに真顔になって、朱夏を覗き込む。

「人のことより、自分のことも考えろよ。俺と、お前の結婚式だぜ?」

「え、う、うん・・・・・・」

ちょっと赤くなって、朱夏は上目遣いに夕星を見上げた。
自分の結婚式、ということはわかっているつもりだが、どうも現実味がない。
式のドレスも、できたというのに。

「だって・・・・・・。何だか、何が変わるのかとか、全然わからないんだもの。今だって、ユウの傍にはいるしさ。何が変わるわけでもないでしょ?」

もじもじしながら言う朱夏に、夕星は少し片眉を上げた。

「がらっと変わるさ。何と言っても、俺のものになるんだからな」

「それは、そんなに変わること? 今でもあたしには、ユウしかいないんだけど」

首を傾げる朱夏を、夕星はぎゅっと抱きしめる。

「わかってないなぁ。式の後は、当然俺はお前を抱くし、子ができたら、兵士の稽古なんかできないぜ。ま、それだけじゃないがね」

そこまで具体的に言われても、朱夏はぼんやりと夕星に抱きついているだけだ。

「それはそうだろうけど~。う~ん、何だかいまだに実感が湧かないわ」

「・・・・・・お前、まだ初夜のこと、わかってないだろ。言っておくが、初夜だけだと思うなよ。式が済めば、ずっと同じ部屋で過ごせるんだからな」

「そっか。そうね。砂漠を越えたときみたいね」

笑って抱きつく朱夏に、夕星は盛大なため息をついた。
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