楽園の炎
どうしよう~と頭を抱える朱夏に、アルはちょっと良いことを思いついたように、明るく言った。

「そうだ。そもそもお相手が夕星様じゃないですか。失礼ですけど、夕星様がそのような堅苦しく細かい作業を、完璧に覚えているとは思えませぬ。適当にしても、大丈夫なのでは?」

なるほど、と朱夏も頷く。

「そっか、それもそうね。そうだ、今日もユウ、夜来てくれるかな?」

夜の散歩は、このところの毎晩の恒例行事だ。
大祭や式が近くなって、いろいろ決めることがあるから、と夕星はセドナらに言うが、実際は別にそんな話はしない。
いつもの、夜の散歩である。

「ユウが来たら、聞いてみようっと。全部覚えないで良いなら、緊張もしないで済むもの」

ひょいと起き上がった朱夏は、ふとアルがにやりと笑っているのに気づいた。

「何よ」

「いえ、さっきまでは抜け殻のようでしたのに、夕星様に会えるとなると、途端にお元気になられるものですから」

くふふ、と含み笑いしながら、アルが言う。
朱夏は何か言おうと口を開きかけたが、結局赤い顔のまま、黙り込んだ。

「良いじゃありませんか。好きな殿方に会いたいと思うのは、自然なことですわよ。さ、思う存分元気をチャージしてらしてください」

にやにやと笑いながらそう言い、アルは朱夏に夜着を着せた。
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