楽園の炎
「いやいやいや。どんな娘でも、可愛いものだよ。お前だって、ひやひやさせられることはあっても、それなりだからこそ、葵王様付きも務まったのだからな」

微妙なフォローだが、打ち解けてからの父の態度を考えてみれば、炎駒が朱夏をどう思っているかなど、おのずとわかるものだ。

だがすぐに機嫌を直すのも悔しく、朱夏は緩む口元を無理矢理尖らせた。
そんな朱夏に、炎駒はごほんと一つ咳払いした。

「とにかく、葵王様もニオベ姫様も、今は王位継承の第一位だ。そのようなお人を雑踏に連れ出すなど、危険極まりないことはわかるだろう?」

「・・・・・・確かに。よ~く考えれば、あたしも結構凄いことしてたんですね」

散々朱夏は、アルファルドでは葵と二人だけで市や森に行っていたのだ。
葵の身を守るのが朱夏の仕事だったのだから、お付き武官と一緒に出歩くという目で見れば、おかしいとこはないかもしれない。

だがやはり、世継ぎの王子の護衛が一人だけ、というのは、通常あり得ないのだ。

「そんなことより、朱夏お姉ちゃま」

ずいっとニオベ姫が割り込んできた。

「葵様とお出かけのときは、わたくしも誘ってよ。朱夏お姉ちゃまもいるし、近衛隊だってついてくるから大丈夫よ」

「ああ、そうですね。では今度どこかに行くときは、お誘いしますよ。ちゃんと皇太子殿下に許可を頂いてからですがね」

ニオベ姫が何気に葵を指名したのには気づかず、朱夏は笑って頷いた。
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