楽園の炎
「相変わらず落ち着かぬ娘ですが、よろしくお願いします」

「お任せください。炎駒殿も、お気をつけて」

夕星が拳を胸に当てて膝を付くと、後ろの近衛隊全員が、同じように膝を付く。
一糸乱れぬその行動に、炎駒が息を呑んだ。
この行動は、近衛隊全員が、炎駒にも忠誠を誓っているということだ。

「・・・・・・心強いですな」

眼を細め、炎駒は、ぽんと朱夏の肩を叩いた。

「それでは」

再度皇帝陛下に頭を下げ、炎駒は皆を促す。
それを受けて、アルファルドの者は船に乗船し始めた。

「母上。歳なんですから、身体に気をつけてくださいよ」

「失礼ね。お前こそ、ナスル様に無理を強いてはいけませんよ」

傍で憂杏と桂枝が挨拶を交わしている。
旅支度の憂杏の傍らには、同じように外套を着込んだナスル姫が付き従っている。

皇帝がそちらに歩み寄り、ナスル姫を軽く抱き寄せた。

「元気でいなさい。降嫁はしたが、お前は紛れもなく、私の娘なのだからな。ククルカンに来たら、必ず城に寄りなさい」

「ありがとうございます。次来るときは、方々の品をお土産に持ってきますわ。もしかしたら、子をお見せできるかもしれませんわよ」

皇帝陛下に抱きつきながら無邪気に言うナスル姫に、憂杏が、げほん、とむせた。
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