楽園の炎
「全く、情けないといえば情けないけど。でも、弱いことが幸いするってことも、あるのねぇ・・・・・・」

ふぅ、とため息交じりに呟き、朱夏は宮殿に視線を転じた。

戦という戦がなかったため、町も宮殿もそのまま。
しかも、属国に入ったというのに、ククルカン王は、この国の王政を、ほぼそのまま残したのだ。

なので、アルファルド王の地位はそのまま。
ただ一応、上にはククルカン王がいることを覚えておけば良いという、何とも緩いククルカン王の宣言だった。
ククルカンの属国というよりは、衛星国といったほうが、正しい状態だ。

「ま、皇帝のアルファルド好きは有名だし、いい人で良かったけど。この国には、皇帝に逆らおうなんて気概のある者は、確かにいないしね」

今やククルカンは、アルファルドを含む広大な土地を支配する、大帝国だ。
故に、ククルカン王は、皇帝と呼ばれている。
大した締め付けもなく、王族の地位まで残した皇帝は、その大胆な決断の通り、民にも王族にも、ざっくばらんな良い人という印象だが、刃向かえば、一瞬にしてこの小さな国など、血の海にするだろう。
それぐらいの人物でないと、この大帝国を治めることなど、できないのだ。

「葵には、とても無理だわね」

独りごちて、木から宮殿の外壁の上に降りた朱夏は、そのまま外壁の上をとことこ歩いて、町の反対側に広がる森に向かった。
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