あの頃の夢
委員長
夢を見た。

あのときと同じ夢。

あれは十年くらい前のことだろうか。

夢の中のぼくは親戚のお姉さんと、
どこかの海へ海水浴に出かけていた。

南国のように、
鮮やかな色彩を放つ海ではなかったけれど、
当時はまだ三才だか四才くらいだったぼくには、
お姉さんと海へ出かける
ということだけでも嬉しかった。

浜辺には、ぼくたち以外に誰もいない。

泳げないぼくは、
浅瀬でお姉さんに
水をかけたりしながら、
バシャバシャと小さく遊んだ。

夢の中なんだから、
沖のほうまで遠泳するくらいの
自由があっても良さそうなものなのに、
ぼくにはそれだけの
度胸も根性もなかった。

お姉さんはもっと遠くまで
泳いで行きたかったみたいで、
広い浜辺で小さく遊ぶぼくに、
一緒に泳いで行けるよう泳ぎ方を教えてくれた。

両手を取ってもらいながら、
両足を水中にフワリと浮かせる感覚が、
泳げないぼくには
何だか新鮮に感じられた。

結局、できるようになったのは
バタ足くらいなもので、
遠くまで泳ぐことなんて
到底できない有り様だったけれど、
もしぼくにそれだけの
度胸と根性があったなら、
今のぼくも
少しは違っていたのだろうか。

もしあのとき、
水平線の向こう側を目指す勇気が、
ほんの少しでも
ぼくの中にあったのなら。



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