さよなら

「せーんぱいっ♪来ちゃった!」


なんだか不安な気持ちをかき消そうとテンションを上げてドアを開けた。

すると目に入ったのは、ビクッと震えて振り返った先輩と床に転がるバイオリンだった。


「えっ…」

「ゆうちゃん、どうしたの?お昼休みにくるなんてめずらしいね。」



先輩はそう言いながらサッと学ランを羽織って、前のボタンを何個か留めるとバイオリンを拾った。

えっ…先輩どうしたの?

なんだか様子がおかしいよ。

さっきの先輩達…もしかして…



「慧せんぱっ「ゆうちゃん!!」


慌てて駆け寄り言葉を発しようとすると、先輩にその言葉がかき消されてしまった。


「聞いて♪ゆうちゃんに報告があるんだ!」


バイオリンをケースにしまいながら、先輩が嬉しそうにコッチを向いて微笑んだ。

そして、ピアノ用のいすに腰掛けた。

手招きをされて、あたしもピアノの近くの机に腰をかける。


「なんですか?」


先輩のニコニコの笑顔にあたしもつられて笑顔になってしまう。


「この前、留学の試験の話したじゃん?」

「はい、確か一次の結果待ちなんですよね?」

「そう、それに受かったんだ♪」

「えっ?まじですか?!」



先輩受かったんだ…!

あんなに頑張ってバイオリン弾いてたもんね。

休み時間も放課後も毎日毎日練習してたんだもん。

あたしは、まるで自分のことのように嬉しくなった。



「うん♪」

「明後日の日曜に二次で、それに受かれば留学できる。」


「すっ…すごい」


「ゆうちゃんに一番に報告したくてさ、まだ先生には言ってないんだよ。」


「慧先輩っ…おめでとうございますっ…」


嬉しくて、

嬉しくって、


なのに

涙が出てきた。


先輩は受かったら、海外に行ってしまうんだよね…。


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