ジュリアン・ドール
ジョウがあの店の時計にオルゴールを仕掛けたのは、店に飾られているあの人形が“音”を求めているような気がしたから。


『踊りたい・・・・・』と訴えているような気がしたから。



なぜそう思ったのかは分からないが、ジョウは、そんな想像の中の会話で求められるままに、そんな仕掛けを時計に仕掛けてみた。


するとどうだ?想像の中のあの人形は、毎日のように踊り出し、彼に人形を作るためのイメージをどんどん与えてくれるようになった。


ジョウはそれ以来、何度も此処“舞踏会”で、あの人形が美しい貴婦人になって、ダンスを踊る姿を想像し、頭の中に思い描いていた。


そう、あのオルゴールが、こんなピアノの旋律となってここに響き渡り、そこで踊る情景をー。


(あの細く柔らかい黄金色の髪は、“君”がステップを踏むごとに揺らいで、時には流れるリズムがその髪の香りを運んでくれる。天井を仰ぐと視界で輝くシャンデリアの七色の光のように、目の前の“君”は額に汗を鏤めて笑顔を美しく飾っている。

その手を取るのは、決して他の者であってはならない)


踊れるはずのないジョウが、何故か想像の中の彼女の相手に自分以外を思う事はなかった。

いつもならくだらない妄想だと自分を馬鹿にするが、ハーリーの演奏する、自分もよく知っているこの曲なら、何の戸惑いもなくリズムに乗れるような、馴染み易い音楽だと思った。自然に、身体が動き出してしまいそうな思いにかられる。
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