ジュリアン・ドール
「ミサ・・・・・」

ジョウの心の震えが一瞬にして止まった。


「心配事を聞いてあげるには、私では役不足かしら、ジョウ・・・?」

ジョウの頬に優しく触れたまま、ミサの唇が言葉と一緒に動いているのを感じる。


「いや・・・・・」


そしてジョウは、頬に受けているミサの唇の感触に熱い思いを沸き立たされ、握ったミサの左手を持ち上げ、その手にそっと口付けをした。


ミサは、そんなジョウの閉じた眸を飾る、栗色の長い睫に、ぼぅ~っとみとれていた。


そしてゆっくり顔を上げ、ジョウは言った。


「ここへつける指輪だったんだ。

今日、夕食会の時、君の父上に頭を下げようと思っていた。・・・・・ミサ、君との結婚を許してもらおうと思ってね?」


「・・・・・!」



ジョウの言葉に、ミサは瞬きをするのも忘れ、言葉を失っていた。


「まぁ・・・、贅沢な暮らしは出来なくても、店もうまくいっているし、何とか少しくらいは余裕のある生活もさせてやれる自信も、この頃もてる様になって来た・・・・・。しかし、君はサロン氏が大切に育てた一人娘だ。

・・・・・反対されたらどうしようって、心配事って言うよりは不安でね。」



ミサは黙ったまま、動けない。



「ミサ・・・・・?!」



ジョウは、黙り込んでしまったミサの様子を見て、別の不安を抱いた。


彼は、彼女にプロポーズをしたなら、彼女は絶対に良い返事をくれると、絶対的な自信を持っていたのだが・・・・・。


「ミサ、・・・・・俺、困らせる事言ったかな?」

「・・・・・言ったわよ。・・・困るじゃないジョウのバカ」


ミサは、やっと口を開いた。開いたその言葉が“困る”だなんて。現実とは彼が思っている程甘くはなかったのかー?彼が想像していた反応とは違う恋人の態度に、一瞬絶望的な応えの予感を想像し、彼は、その応えを聞きたくはなかったせいか、応えをかき消すように勝手にしゃべり出した。
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