ジュリアン・ドール
娘の美しい唱声は、満月の光が降り注ぐ中で、冷たい夜風に乗って辺りに響き渡っていた。


すると、辺り一面のソ-プリリアの花という花が目覚め始め、花を開くことも出来ずに枯れて果てて行くはずだった運命に背き、次から次へと蕾を開かせ、満月の夜を賑わせた。


 クスクス・・・・・。


無邪気に笑う声が辺りに響いている。



人形店“ジュリアンド-ル”の、微かに開いたままの扉の奥から、時計に仕掛けられたオルゴールの三重奏の音が洩れてきて、風に揺れて踊るソープリリアの花で賑いだ月の夜を一層楽しくさせている。



娘は、引きずるほどに長い真紅のドレスの裾を持ち上げ、風に踊らされる花と戯れるように、弱々しい音の旋律に合わせて、得意そうに一人でダンスを踊り始めた。


楽しげに、飽きることなく、しばらくの間踊っていた。


そして、その足は、リズミカルにステップを踏みながら、ソ-プリリアの花に手を伸ばし、一本、また一本と花を摘み始めた。


ソ-プリリアは娘に摘まれることを望んでいるように、自分が一番美しいと言わんばかりに美しく花を開き、夜風に任せ、花びらを揺らしてアピールしている。


娘は、咲き誇る花を摘みながら、オルゴールの奏でる旋律に合わせ、静かな声で詩を口ずさんだ。



 ソ-プリリアよ、美しい花。

(ソ-プリリアよ、美しい花)


 季節はずれに、花を開いた。

(季節はずれに、花を開いた)
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