未熟な天使 *恋と心理学と彼とわたし*
その教室の前に立った時、さわやかな風が流れてきて体を優しく包んだ。
「気持ちいいー!」
ここは学校の敷地の一番北側にある、今は使われていない旧校舎。
中のカーテンは、閉めきられていて薄暗いけどその向こうの窓は全開らしく、カーテンが風にはためくたびに眩しい光がさし込んでは隠れる。
「時田が職員室にいる時に風を通しに来たんだ」
それで、こんなに涼しいわけだ。
窓から入り込んだ風は、廊下の窓から抜けて行く。
「でもここって、秋には取り壊しになるんでしょ?」
「らしいね。
残念だなー、俺の憩いの場所だったのに」
そこであたしはピンときた。
「もしかして辻之内、いつも昼休みにここに来てない?」
そしたら彼はイタズラっこみたいな顔で「正解だよ」って笑った。
いつも昼食後に姿を消すのは、立ち入り禁止の旧校舎へ来てたってわけか……。