未熟な天使 *恋と心理学と彼とわたし*
「俺もなんか歌おっかな」


新曲のボタンを押して、ピコピコと検索をする彼。


「なんか好きなの、ある?」


と急に訊かれても全然浮かばなくて、困ったなって思っていたら。


「ねぇ 林田、あれ歌えば?」


たったいま歌い終えたばかりのリカが、林田くんの手元を横から操作する。


そしてナカジーの騒がしい曲のあとに流れだしたイントロは、夏に流行っていた曲。

地元を拠点のまま活動する大学生バンドの、切ない失恋ソング。


特に夏の間は、街を歩けばいろんなところで流れていて。

そういえばリカも、好きでよく聴いていたよね。


―― 冬の日に出会った女のコに恋をして、春が来て、その恋は夏に一気に燃え上がり。

でも彼女は結局、別のヒトを好きになっちゃって。

自分の想いを告げることもなく彼は、心にそっとその恋をしまいこむ。

そして季節はまた巡り、彼はまだ彼女を想ってる ――


そんな気持ちを歌った、バラード。



一生懸命に歌う林田くんの声が、ちょっと遠く感じた。


聴き入っているリカの横顔も。

相変わらず自分の曲入れに熱心なナカジーの姿も。


この狭い空間の中であたしは、晴れない気持ちを抱えていた。

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