未熟な天使 *恋と心理学と彼とわたし*
だけど彼は、

だけど辻之内は、あたしと林田くんが立っているすぐ横をスルーして通り過ぎて行った。


目もくれることもなく

表情ひとつ変えずに。



(えっ……)


その姿を追うように振り返ると、辻之内の左手に握られてる物が目に入った。


ギュっと結ばれたグーの形からこぼれている、キーホルダー代わりについた小さな札。


確かに見覚えがあるものだった。





避けられた ――



ずっと自分でも同じことをしてたくせに。

失恋したんだから早く忘れたい、なんて言ってたくせに。



それなのに、あたし


体ごと深い穴に落とされたみたいで。

心は、自分でも手に届かないような闇の中にあるみたいで。


息をするのも忘れるくらい、強い強い痛みを感じていた。




< 316 / 406 >

この作品をシェア

pagetop