メランコリック
雨の日
さめざめ、さめざめ。

そう、泣いてるように聞こえた。この頃冷たい雨が続く。

冷えきった体が、心まで寒々しくさせる。

とにもかくにも絶望していた。何もうまくいかない。かといって、何かを憎むほど悪くはない日常。激情の後の燃え滓が少しずつ、風に飛ばされ、何もなくなるような。不安さえも奪われそうだった、そんな危うい日。


「ちょっとぉ、あれ、見て」
「ほんと、なんなのかしらね」


声のでかい、ひそひそ声。女たちは通り過ぎた。

ギロリ、その男は鋭い眼光で、こちらを見ていた。いや違う、こちらではない。


劇場、だ。
雨宿り人に賑わう劇場入り口。その向かいから、彼は睨み付けていた。



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