紅い山 蒼い月
実家

神教寺・観楽寺

夕方、17時15分
早番の仕事が終った。

売場を離れて、従業員用通路を進むとロッカー室があるのだ。

そこで着替えて専用の出入り口から退社するが
百貨店内で買い物をしたい人は、そのまま売場に行っても怒られないらしい。





今の職場の人達は
あまりプライベートな事に突っ込んで聞いたりしないので助かる。

私はあまり人には言いたくないのだが
実家が寺なのだ。


それも普通の寺ではない。

やたらと名前が長いのだ。



「神王護国教願金剛峰々嶽観楽寺」




略して「神教寺」と「観楽寺」


何で略称が2つもあるねん?



住職の祖父が言うには
「いつの間にか、どっちの名前からも呼ばれるようになってん」だそうだ。




しかも、うちの寺には門が2つあって
寺の名前の入った看板をそれぞれに掲げて
神教寺の看板の下には「観楽寺をご参拝の方はあちら」
観楽寺の看板の下には「神教寺をご参拝の方はあちら」
と案内まで出している。


本堂は1つしかないのに、何でそんなややこしい事をしてるんだ?




そもそも、あんなクソジジィに住職なんか務まるのか?

いっつも変な事ばっかりしてるクセに・・・



私が高校生の時だった
自転車が壊れた時に祖父が
「じゃあ、わしが治したろ」と言って修理してくれた。


しかし、夕方に完了した時には
チェーンが2本付いていた。


「何これ?」

「ん?修理してみてんけど・・・」



乗ってみたけど、確かに普通に走れる。


少々キーキー言うが、問題なく走る。


どういう構造なんだ?


私は何か腑に落ちない自転車に乗って高校時代を過ごしたのだ。



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