春・紅茶・春
「琴子も大変だねぇ。」

里桜はポテトチップを食べながら言う。

「里桜。お願いが…。」

「絶対イヤ!私、あいつ苦手なんだもん。」

せめて最後まで聞いてよね。

大体…。学級委員って名前ばっかりで、要は先生のパシリじゃん。

「あっ。噂をすれば。」

里桜は黒板の方を指した。
そこには、今教室に入ってきたと思われる黒木くんの姿がある。

「ほらほら♪渡してきなよ。」

ニヤニヤと笑う。

「そんなんやって、お菓子ばっかり食べてるから最近太ったんだよ!」

「@*&#%£!?」

声にならない叫び声をあげている里桜をおいて、私は黒木くんの所へ向かった。

自然と心臓がドキドキする。

また無視されるかもしれないという恐怖なのか…。
他の感情なのか…。
考える余裕もない。

「あ…あのっ。」

私の声に、黒木くんは振り返った。

あの時と変わらない。
真っ黒な瞳で、私の方を見上げた。

よく漫画や小説で<吸い込まれそうな瞳>とかいうけど…。
黒木くんの瞳は、それにピッタリだ。

「何か用?」

「あのっ。これ…先生から預かったの。はい。」

「ありがとう。」

私は、すぐに回れ右をして自分の席に向かった。

まだ心臓はドキドキしている。

久しぶりに、黒木くんの顔を見た。
久しぶりに、黒木くんの声を聞いた。

ただ…それだけなのに…。
< 15 / 25 >

この作品をシェア

pagetop