オフィスの甘い罠
やっと決心して、あたしは
書類をクリアケースに
入れて立ち上がった。



『副社長室行くの!?』
なんて騒がれてもイヤ
だから、黙ってそっと
席を離れる。



重役の部屋はひとつ上の
階だから、エレベーターに
乗って移動して――。



(――着いた。

まだ誰かと一緒かな)



室内から特に話し声や
物音は聞こえないけど。




あたしは深く深呼吸して
から、思い切ってドアを
ノックした。



一呼吸おいて、あの低い
声がドアの向こうから応える。



「―――どうぞ」



「……失礼します」



小さくドアを開けて中に入った。



副社長室に入るのはこれが
初めてだけど――デスクと
応接用のソファがある
だけの普通の部屋だ。



まぁ副社長なんて
言ったって、中小企業だしね。
< 87 / 288 >

この作品をシェア

pagetop