桜雨

光に溶ける声

さく、さく、と土を掘る音だけが響く校庭。


今は試験期間中だから、生徒は皆帰宅している。


夜の闇が忍び寄る校庭に一人いるのは、少し怖い気もした。


この学校は、古い歴史もあることが相まって、7不思議、のような都市伝説がある。


ちなみに、この桜の木の下には、


「死んだ恋人を待ち望む女の霊」が良く出る、という噂があった。


だから、ここで一人でいるのは、やはり怖い。


だけど、これを為さなければ、いつ為すことが出来るだろう。


もう、今しかない。


今しかないんだ。


彼女は無表情のまま、土を掘り続ける。


さく、さく、さく・・・。


しかし、目当てのものは見つからない。


「・・・あれ、ここじゃあ」


そう、言葉を零した瞬間だった。







「やっと、・・・この時が来たんですね」


「!?」







彼女は突然の声に、身体をこわばらせた。


怒られる、そう反射的に思ったからだ。


しかし、彼女が思った通りのどなり声や、戒める言葉は、


いつまでたっても聞こえてこない。


ただ、その代わり、背後に立つ人の長い溜息が、耳を掠めた。


「待ちましたよ。・・・随分と長い間。この瞬間を、・・・ずっと」


その声は、涙で震えているようだった。


男の声だろうか、女の声だろうか。


パニックになった彼女の頭は、それすらも判別することが困難となっていた。


とにかく、落ち着け。


彼女はそう言い聞かせ、恐る恐る後ろを振り向こうと立ち上がり、


首を徐にひねろうとした時。


「・・・!?」


突然、辺りが眩しい光に包まれた。


あまりの眩しさに、彼女は目を思い切りぎゅっと閉じた。


そして、立っていられないほどの強い風が彼女に吹きつける。


「ちょ、・・・きゃっ!」


両足で何とか踏ん張るも、彼女の力では、立つことは難しく、


その場に倒れこんでしまった。


「・・・やっと、・・・」


見知らぬ誰かの声が、辺りに溶け込むかのように消えていく。
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