桜雨
対面

桜と共に



ここ最近、幸枝は寝ていることが多かった。


この日も、大きなベッドの中に体を沈めて、夢さえ見ずに寝ていると、


ドアのノック音で目が覚めた。


「お嬢様、失礼いたします」


ぼやけた視界に浮かぶハナの顔は、少し遠い。


彼女は力を込めて上体を起こした。


「何かしら?」


「ご無理はなさらずに。寝たままで結構でございますよ」


ハナは右手に何かを抱えている。


「お嬢様、明日はこちらのほうにお着替え願えますか」


「・・・それは?」


ハナは失礼します、と言いながら、彼女の体の上にかかる掛け布団の上に、


それをひらり、と広げた。


「ドレスでございます」


てかてかと光った生地に、


花びらのように可憐なレース。


薄桃色のそれは、桜の花びらを連想させた。


「いかがでございましょうか」


「素敵ね」


幸枝はため息を零すかのように、そうつぶやいた。


「ということは、・・・明日なのね」


「はい。明日でございます」


幸枝は窓の方へ顔を向けた。


ハナには、彼女の表情が見えない。


ただ、その小さな背中には、あまり喜びというものは見えなかった。


「・・・そう。・・・藤條様がいらっしゃるのね」




< 51 / 51 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

夏に燃ゆ
kei.h/著

総文字数/1

ファンタジー1ページ

表紙を見る
雨音色
kei.h/著

総文字数/90,901

恋愛(その他)183ページ

表紙を見る
どうしてしなきゃいけないの?
kei.h/著

総文字数/7,404

恋愛(その他)24ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop