ミモザの呼ぶ声
 その頃、海外赴任だった父が死んだ。
 過労死だって言ったけど、事情のわかる相手がいなかった。オレもまだ小学校へもあがらない五つのガキだった。
 ただ、赴任先からたったひとつ、美優には人形が送られてきた。精巧なでき。
 ちょっとプラモなんてやってりゃ、そいつが値の張るもんだってわからア。

『恭介、美優、誕生日には何か贈ろう。何がいい?』

 出発前の台詞だった。本当は挨拶なんてしてられないほど、忙しかったはずなのに。
 オレと美優はその後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
 オレには画集で良いって言ったけど、そっちのほうはどうやら、間に合わなかったみたいだ。
 だって父の帰りは永遠に来なかったのだから。

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