あんな。めっちゃ、だいすきです。



「ご希望とかありますか?良かったらこちらのシートにご記入下さい」



にっこり笑うスーツの女の人を前にして、ウチもちょっとひきつった笑いを返す。


…いや、ご希望とか言われても。



日曜日。


いっちゃんに半ば強引に連れてこられた近場の不動産屋。


出されたお茶は梅こぶ茶。


湯気を立てて、ふんわりと甘酸っぱい匂いが鼻先に運ばれる。


家借りるつもりなんかないのに、こんなん思いっきしひやかしやん…。


そんなウチの心配をよそに、いっちゃんは鼻歌うたう勢いで、スイスイ丸をつけていく。



バス・トイレ別

8畳以上

家賃6万以下

・・・・



「検索かけてみるんで、ちょっと待っててくださいね」


お姉さんが向こうでパソコンをカタカタ言わせている間に、机の下でいっちゃんの袖をひっぱった。



「なぁ…やっぱ悪いって。」

「なんで?」

「借りるつもりないやん。お茶まで出してもろてさぁ…」

「うまいよな、これ。俺梅こぶ茶めっちゃすき」

「うん、うまい…やなくて!」



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