押しかけ×執事
 養女になることを承諾してから10日後、家庭裁判所での養子縁組の手続きが済み、あたしの名前は「仲春さつき」になった。

 報告に訪れてくれた裕一さんからあたしの養子縁組の手続きが済んだことを聞かされた瞬間、心に強い寂しさが滲み出たけど。

「名前が変わってもさつきは私の子よ」

 すぐにあたしの頬を撫で、お母さんはまるで自分に言い聞かせるようにそう言ってくれた。

 それですごく安心したのを覚えている。

 仲春になっても、あたしはこの先もお母さんとずっと一緒――

 それを信じて疑わなかった。

 その証拠に、この頃のお母さんは小康状態で、お医者様からの許可が下りれば、卒業式にいけるかもしれない、って話をしていたから。

 けれど。

 その願いが悲しい結果に終わったのは――養子縁組が決まった、わずか3週間後のこと。

 たった1人の肉親だったお母さんが、そっと眠るように息を引き取った。

 3月3日のひな祭りの日の朝、病室にいたあたしと、病院からの連絡で駆けつけた裕一さんに見守られるようにして――……
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