あげは蝶
“お母さん”“お母さん”
あたしはお母さんを本当のお母さんのように愛情込めて呼ぶけれど、「お母さん」は見向きもしない。



前のお母さんに
愛情を注がれることもないまま死別されてしまったため、やはり再婚相手だろうとも、初めて“お母さん”という存在を得られた気がした。


離婚し、大好きなお父さんがいなくても、お母さんがいたから大丈夫だった。
「お母さん、お母さん、これ買ってよ!ねえ、お母さんったら。」

あたしは新製品のお菓子を買ってもらいたいあまり、少し強めの口調で言った。


少し最近いらいら気味だとは思っていたが、キレたりするほどではないと思っていた。

「ふざけんじゃないわよっ!いつもいつもワガママばっかり!!ほんとこんな子引き取るんじゃなかったわ…。あのエロじじいも、よくもこんな子押し付けてくれたわね!」


ワガママ……?
引き取るんじゃなかった……?
エロジジィ……?
押し付ける……?


その言葉たちをしっかりと理解するのには時間がかかって。

理解したくない気持ちがあまりにも大きすぎた。



つまり、
いまのお母さんとお父さんはあたしをお互い引き取りたくなかった…。

いまのお母さんは
あたしをワガママで面倒な子と思っている…。



嫌われてしまったの?
悪戯が過ぎたの?
お菓子なんかねだったから?
あたしのこと……
好きで引き取ったわけじゃ…ないの………?


嘘でしょ…?



まさか……………。


あんな優しかったお母さんが
そんな酷いこと、言うはずないもん。

きっと、お父さんと離れ離れになって不安なだけだよ…。


あたしにとっての
初めて出来た“生きた母親”の存在。

甘えることができ、
ワガママを言え、
一緒に遊べて、
いっぱいお話が出来る、
初めての、
初めての、


母子で出来ることを
与えてくれた、
素晴らしいお母さんの存在……。


エロジジイって………
まさかお父さんのこと?

………………………お父さんのこと…悪く言わないでよ……。



お母さん……どうちゃったの?
なんか最近おかしいよ。

優しいお母さんはどこへ行ってしまったの…?!
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