EGOISTE

「はい。トレード」


水月の背後から鬼頭の声が聞こえて、さっと前に出てきた。


歌南の手を取ると、「今日はすみませんでした」と律儀に頭を下げる。


「あらっ。いいのよ~。また喧嘩したらいつでも言ってね」


なんて恐ろしいことを言い出す。


勘弁してくれ。一日でも歌南の世話は大変だっつーのに。


あれ?……でも、俺歌南に水月と鬼頭が喧嘩してるって言ったっけ。


「あたしはまこから何も聞いてないわよ。ちなみに水月からもね」


歌南はちょっと唇の端を吊り上げると、色っぽく笑ってウインクを寄越した。


そして鬼頭に笑いかけると、


「男って何で秘密が多いのかしらね?」と意味深に言葉を含ませた。


「怖いからですよ。自分の本心をさらけ出すのが。男は女の前で常にかっこつけたい生き物ですから」


鬼頭が顔を上げて、歌南に答えてる。


鬼頭の言葉に俺と水月は顔を合わせた。


そしてバツが悪そうに二人揃って俯く。


ええ、ごもっともデス。


「でもバカで可愛い生き物ですよね。男って」鬼頭が口の端にちょっと笑みを湛えた。


水月にほんのちょっと笑いかけると、俺の手をとった。


「じゃぁね水月。また」


「あ、うん。連絡する!」


「待ってる」


そうして扉はパタンと閉じられた。




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