EGOISTE
一言言い終わった楠はすっきりしたのか、あるいは区切りがついたのか、アイスカフェオレのストローに口をつけた。
「ご迷惑をお掛けしました」
グラスをテーブルに置いて深々と頭を下げた。
「いや。別に迷惑だと思っちゃいねぇよ」
「そうそう。気にしないで」
俺と鬼頭の言葉に楠はここへ来てようやく顔に明るさを取り戻した。
無理をしているのは明らかだった。
納得いっていないこともある。許せないこともある。
だけど事実を受け入れて、こいつは前に進もうとしている。
「頑張ったな。ご褒美にケーキでも食うか?」
俺が楠の頭をポンポンと軽く叩くと、楠はそのままの姿勢で、
「うん♪」と答えた。
「先生、あたしも。買ってきて」
隣で鬼頭が俺のシャツの袖を引っ張った。
「へぃへぃ。んじゃ適当に見てくるから」俺は席を立った。
楠の方を見ないように……
いや…今視線を合わせてはだめだった。
喫煙スペースを区切るガラスの扉を開けるとき、その表面に楠と鬼頭の姿が朧げに映し出されていた。
楠は頭をうな垂れ、手で目元を押さえている。
鬼頭はそんな楠を励ますかのように肩に手を置いていた。
俺は扉を開け、楠が泣いていることに気付かない振りをして喫煙スペースを出た。