EGOISTE

何言い出したんだ?こいつは……


「乃亜はさ…明良兄のことが好きだからお兄のこと許したんだよね?」


いきなり話題が変わるな。


俺のことじゃなく、楠のことかよ…


「……まぁそれが大前提じゃねぇの?」


「……違うよ。好きだから許すのと、許される範囲だから好きなのと。二つは同じように見えて全然違う」


「……まぁ、確かになぁ」


好きだから許すってのは、置き換えてみれば自分が我慢するってことだ。


本当は許せないことでも、その気持ちがあるから目を瞑るってことだ。


「乃亜も甘いよ」


意外な言葉だった。


俺はちょっと目をみはって隣の鬼頭の横顔を見た。


幸いにも渋滞の上、赤信号だ。


鬼頭の白い頬に赤いテールランプが反射して、燃えるような…炎のような色を映し出していた。


それは鬼頭の内に眠る怒りが滲み出ているように思えた。








「……お前…何か知ってるな?」








俺の言葉に鬼頭がぐるりと振り返る。


鬼頭の黒い黒曜石のような瞳にランプの光りが反射して、赤い光を帯びていた。






「明良兄、未遂なんかじゃないよ。前科者だよ」










< 162 / 355 >

この作品をシェア

pagetop