EGOISTE
俺は人に優しくなんてできない。
楠は俺のことを優しいと言ったが、それは違う。
俺のは偽善だね。
俺は利己主義者だ。
己の都合しか考えていない。
だからこんなこと簡単に出来る。
俺はもう一度水月の顎に手をかけた。
「まこ…!やめっ!」
「て」と言い終わらないうちに俺は水月の細い首を片手で掴んだ。
力を入れたら簡単に折れてしまいそうな華奢で繊細な…
でも掌に感じたのは、驚くほどの熱さだった。
こいつ…こんなに体温高かったっけ?
水月がごくりと唾を飲んだのが分かる。
俺は自分でも驚くほど冷酷に笑った。
「お前がここ弱いこと知ってる。ちょっとでも力入れたら、落ちる(失神する)ことも」
前に一度冗談で後ろから首を羽交い絞めにしたら、こいつは本気で嫌がった。
顔色を真っ青にして。
こいつがネクタイやマフラーを首に巻かないのはそういうこともあってのことだ。
水月は顎を引くと、涙目になった瞳で俺を見上げていた。
「まこ…やめて」
「うるっせぇ!!」
みんな…
みんな俺の元から居なくなる。
母親も歌南も……千夏も―――
きっとこいつも
失いたくないのに、俺は自ら手放そうとしていた。