EGOISTE

ブラックアウト




頚動脈洞性失神


頚動脈洞が過度に過敏な場合、頚部の刺激によって起こる。


ネクタイを締めたり、後ろを振り向いたりするだけで起こることもあるのだ。


こいつの場合空手のときにつけてしまった癖らしいが。


失神が起こるメカニズムは頚動脈洞の圧受容器の圧迫によって、副交感神経が興奮し、房室ブロックや洞停止、血管拡張を起こすことによって引き起こる。




俺は水月の頭の下からクッションを抜き取り、こいつの両脚をソファの肘掛に置いた。


シャツの下にはVネックのTシャツを着ているようだったから、呼吸困難は起こさないだろう。


エアコンを切って、床に落ちたブランケットを拾い上げると水月の体の上にそっとかける。


窓を開け放ち、風通しを良くして俺は力なくソファの下に腰を降ろした。


流した涙はもう渇き始めている。


それでも塩辛い何かを感じて、俺は乱暴に頬を拭った。





「ごめんな、水月……」





ソファに横たわって白い顔で目を閉じている水月を見て俺は小さく呟いた。


「俺、最低だな」


もう一度呟くと同時に、ローテーブルに置いたケータイが震えた。


水月のだ。


サブディスプレイを見やると、


“着信:雅”となっていた。


俺はケータイを手に取ると、通話ボタンを押した。


『―――もしもし?今コンビニに居るんだけど、新作のプリン出てたよ。水月食べたいだろうから買っておくね。それ持って今からそっち行くつもり。


今日歌南さん居ないんでしょ?』


電話口に出た相手が水月だと確信して、鬼頭はぺらぺらと良く喋る。


俺と居るときはそんなに喋らないのに…


って、まぁ今はそんなことどうでもいっか。





「―――鬼頭?俺……」






しんと静まり返った室内で、俺の声だけが響いた。




電話の向こうで鬼頭が一瞬だけ沈黙する。




『……なんで先生が電話に出るの?』








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