EGOISTE



これは夢……?


そうに違いない。


夢だったら、すっげぇリアル。そして何で俺はこんな夢を見る?


夢とは得てして不可思議なものである。


夢は心の中で抑圧されて意識していない願望や、覚醒時に考えていた悩み事や不安要素が如実に現われるというケースが多い。


それらは誇張されているということも多く、結果的に現実としては不可解な現象で表されることが多いのだ。


それを考えると、この内容も頷ける気がするが…



楠が病室を立ち去ったあとに訪れた静寂のなか、俺は混濁する意識の中必死に考えた。


答えの見つからないまま、俺の意識は考えるよりも深い深いところに引きずられて、やがて考えることすらできない眠りの底へと落ちていった。




どれぐらい眠っただろう。


唐突に……


何かの感触を感じて、俺の意識は戻りかけようとしていた。


しかし、完全に覚醒することなく、また夢と現実の境目を行ったり来たり。


現実に引っ張られるようとする反対側で、心地よい眠りが俺をいざなっている。


さっきよりひどい。


脳の中で認識されていない空間がよじれて、ぐねぐねと曲がっている。


気持ち悪さを感じ、俺は起き上がりたかった。


だけど目覚めはやってこない。






何故阻む。何故拒む?







「………―――まこ」



聞き慣れた声がして、一瞬…本当に一瞬だけ脳に描かれた空間がきれいに映し出され、


眼の裏に女の姿が映った。





歌南―――









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