EGOISTE


切実にタバコを吸いたくなった。


だがまだ治療中だ。できないと分かっていてそれが余計にもどかしかった。




歌南はマルボロの箱を置いていった。


まるでメッセージのように。


黄色い薔薇に


「笑って別れましょう」と言葉を託して。


別れ…俺たちはとっくに別れてる。これ以上どう別れるって言うんだ。考えて、すぐに答えが見つかった。





「永遠に、さようなら」





歌南はこう言いたかったのかもしれない。


タバコは……?


「むやみやたらと走ってても仕方ないわ。とりあえず一旦止まって、地図でも見た方がいいんじゃないかしら。この車、カーナビついてないし」


と千夏が提案した。


水月もそれに賛同した。鬼頭は何も答えなかった。


結局答えを見つけられないまま、近くのコンビニの駐車場に車を入れる。


俺はコンビニで道路地図と、人数分の飲み物を買った。


鬼頭はトイレに入り、千夏はコンビニ内をふらふらと歩き回り、水月は外でタバコをくゆらせている。


暗い夜闇に浮かんだ水月の白い横顔は、真剣そのもので、どこか翳りを宿していた。


口からタバコを抜き取ると、こいつには珍しくちょっと荒っぽい仕草で、灰を灰皿に落とした。


こいつだって平静では居られないってことだ。


気の毒そうにその横顔を見て、そしてふいに何かの記憶が呼び起こされた。




水月のくわえたタバコの先の灰を見て、俺の目の前を鮮やかな記憶が甦る。





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