EGOISTE



「誠人!乱暴はやめて!!」


背後で千夏が叫んだが、俺は振り返らずに彼女にも一喝した。


「お前は黙ってろ!」


千夏がびくりとした気配を感じる。






「しっかりしろよ!!お前母親だろ!?



おなかの子を守れるのはお前しかいないんだ!!泣き言言ってめそめそ悲しんでるだけじゃだめなんだよ!


お前いくつだよ!?もう28だろ?





16のガキだって、その場に直面したら事実を受け止めて


子供を育て上げる覚悟と自信を持ち得てるんだ!!




お前にできないはずがない!!」






荒々しく息を吐くなか、俺はすぐ背後に立つ鬼頭の気配を全力で感じ取ろうとしていた。


鬼頭はどんな顔をしている?


何を思っている?


どんな思いでここまで来た―――?



色んな疑問が浮かんでは泡沫のように消えていく。




俺は真正面から歌南を見据えた。







俺が好きになった女は―――こんな女じゃなかった。


もっとたくましくて、もっと強く気高い―――




神代 歌南だ。








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