EGOISTE


俺は着てきた服に着替えると、まだ心地良さそうに眠っている千夏の頬にキスを落とし、部屋を出た。


白い海岸を歩いて、鬼頭の後ろ姿を見つけた。


鬼頭はくるくると日傘を回しながら、ゆっくりと波打ち際を歩いている。


何か見つけたのか、ちょっとしゃがみこみ地面に手をあてていた。


あいつ…何やってんだ?


訝しく思いながらも、俺は鬼頭に近づいた。


鬼頭の背後に立つと、こいつはゆっくりと振り返り、


「見て。桜貝、きれいでしょ」とまるで自慢するように俺に見せて来た。


近づいてきた人物が俺じゃなかったらどーするんだよ。と若干常識的な考えを浮かべながらも、俺は曖昧に頷いた。


「…あ、ああ」


「さっすが先生。朝早いね」


「悪かったな。じじくさくて」


俺はちょっと口を尖らせると、鬼頭は一瞬眉をぴくりと動かし、そして口元に薄い笑みを浮かべた。


「ふぅん」


何か意味深に頷くと、ゆっくりと立ち上がる。


「な、何だよ」


「べっつに」


笑みを浮かべながら、鬼頭は歩き出した。


俺も何となくその後を追う。


「その日傘はどうしたんだよ?」


「うん。あの車に入ってたのを借りてきたの」


「あっそ」


一瞬、


一瞬だけど、歌南とのデートを思い出した。


あいつも白い日傘を差していたな―――





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