EGOISTE


スーツケースを荷物預かり場に届けて、出国ゲートに向かう歌南を見て


さすがにちょっと寂しさを覚えた。


曲がりなりにも、昔愛した女だ。


入り口で歌南は立ち止まると、ちょっと俺の方を振り向いた。そして俺の元へ足早に駆けてくる。





「誠人」




俺の両肩に手を置き、俺の耳元に顔を近づける。


エゴイストの香りが二倍になって、俺達が付き合っていた事実を思い出した。





「ありがとう。あんたは最高の男だったわ。




幸せになりなさいよ」






耳元で囁かれて、俺はちょっと笑った。


「言われなくてもなるっつぅの」


「相変わらず生意気だけど。そこがあんたの魅力でもあるわね」


エゴイストが遠ざかる。





昔は―――


一つだった香り。だけど今は二つに分かれた。


それでもその香りが存在する限り、俺たちはどこかで繋がっている。




「元気で」


俺は少しだけ手をあげた。


「ええ。あなたも―――」






二人とも「さよなら」は言わなかった。





今度会うときは、二人ともそれぞれの幸せを掴んでいると思うから。



笑顔で再会できると信じてるから。





またな。




歌南―――







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