利己的ヒーロー

「誰が私に触っていいって言った?」

びしり、と。

空気が、時間が、地球が止まる音がした。

今のは聞き違いだったかと、幾人かが耳をいじる。


その時丁度、カランカランという、来客を告げる音が店内に響いた。


「はっろーうマーリンちゃん! 金金金金! さくっと取ってきましたよッ! 肉食うぞ肉!!」

入店――というよりは、乱入してきた――のは、黒づくめで超ハイテンションの男だった。
なぜか袋を背負っている。
当然、彼はバー全員の視線を浴びた。

「何何何何? この眩しー眼差し!? 俺ちゃんスタァ?! なーんつって、勇者だから当然かな!」

唖然。
なんだこの異空間は?

「ゆーくん遅いわよぉ。もうちょっとでお持ち帰りされちゃう所だったわ」

凍結したバーで、マーリンが嬉しそうに立ち上がる。

そして、魂の抜けたような周囲の目を気にしてなどいないように、
マーリンと男は連れ立って歩いて行ってしまった。

「…………嘘だ」
ややあって、マッチョが言葉をもらした。

誰にも聞こえない程の小声だったが、誰もの心中と同調していた。


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