永遠の翼
「おはよう、宏」


「・・・おはようございます」


この家の家主で、川上 秋夫(かわかみ あきお)さん。


音大の講師で、俺のピアノの先生でもある。


「詩織はどうした?」


「もう起きてますよ。じきに降りてくるでしょう」


俺は、一足先に皿が並べられた食卓につく。


きつね色に焼けたトーストと、いい香りのするコーヒー。


すべて秋夫さんが作ったものだ。


母親は既に故人だが、秋夫さんと詩織はそれを感じさせない。


少し遅れて、詩織が降りてくる。


「おはよう、我が愛の結晶よっ」


「うん、おはよっ。お父さんっ」


軽快な挨拶を交わして、食卓につく。


これだけで、このふたりはどれだけ仲がいいか分かる。


最後に秋夫さんが食卓について、朝食が始まる。


「今日から新学期だね、ヒロちゃんっ」


「嬉しそうだな、お前は」


「ヒロちゃんは嬉しくないの?」


「いや、まあ・・・どっちかというと嬉しいが」


「なんだ、嬉しいんじゃんっ」


「お前ら、今のうちに学生生活を楽しんでおけよ。一生に一度の宝物だからな。青春だぞ、青春」


何故、秋夫さんはこんな恥ずかしいことを堂々と言えるのだろうか。


「いや、そんないいもんじゃないでしょ・・・」


「いずれ分かるときが来るさ」


来ないと思う。


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