あの頃から君は
 総司はテーブルに肘を乗せて頬杖を突き、美羽と同じように路地に視線を向けた。こんな天気の日は、小巻は透明なビニール傘を好んで使っていた。歩行者のほとんどがビニール傘だから、遠くからじゃ分からないだろう。

「今の俺に会ったら、見直してくれるかな」
「無理だと思うよ。だって小巻、筋肉質の男の方が好きだもん」
「知ってる。振られた理由それだから」
「それなら鍛えとけよ」
「いや、冗談だから」
「・・・というか、昔の話なんでしょ」
「うん、昔の話」

 二人の間に若草と土のにおいを運ぶ風が吹いた。美羽が息を吸って肩を竦める。総司が背もたれに掛けたままのブランケットを美羽の肩にそっと掛ける。美羽がありがとうと言って笑った。
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